【徹底解説】インサートナットの使い方と正しい選定ポイント

インサートナットは、樹脂部品にめねじを設ける手段として広く利用されていますが、樹脂の種類や使用環境、成形方法によって、適切な選定と使い方が大きく異なります。
誤った選定は、締結不良や製品トラブルの原因にもなりかねません。

本記事では、インサートナットの基本から選定ポイントまでをわかりやすくまとめました。
現場での設計・工程管理に役立つ選定の基本ポイントを整理しています。

また、さらに理解を深めたい方向けに、動画でも詳しく解説しています。
「まずは概要を知りたい」という方も、「実際の使用イメージを見たい」という方も、ぜひご覧ください!

目次

インサートナットとは?

①対応している樹脂の種類

インサートナットとは、樹脂の材料に「金属製のめねじ」を設けるための部品です。樹脂は熱硬化性樹脂熱可塑性樹脂に対応しています。

熱硬化性樹脂 : 熱を加えると、樹脂が固まる樹脂 (※クッキーや目玉焼きのイメージ)
フェノール樹脂(PF)、メラミン樹脂(MF)、エポキシ樹脂(EP)、ユリア樹脂(UF)、不飽和ポリエステル(UP)、ポリウレタン樹脂(PUR)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)など

熱可塑性樹脂 : 熱を加えると、柔らかくなる樹脂 (※チョコレートのイメージ)
ポリプロピレン(PP)、ABS樹脂(ABS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネイト(PC)、塩化ビニール(PVC)、など

②成形方法の違い(インサート成形・アウトサート成形)

インサートナットの成形方法は以下の2種類があります。

  • インサート成形:射出成形時に金型にセットして、樹脂成形に同時にナットを成形します。
  • アウトサート成形:成形された樹脂に後からインサートナットを埋め込む成形方法です。

③インサートナットを使う理由


では、なぜ金属製のインサートナットがが必要なのでしょうか?
インサートナットを検討する場合、樹脂と金属部品(ねじ)を締結するという場面がほとんどです。この場合、金属を使う理由は、締結部に一定の強度が欲しいという要望があります。金属のねじを使う理由もここにあります。
もう1つが、複数回取り外したり取り付けたりすることが想定される場合です。樹脂に直接めねじを切ってしまうと樹脂がすぐ傷んでしまいます。この場合、金属製のナットが有効となります。

  • 強度が必要
    ネジを強く締め付けても樹脂を傷めません。タッピングねじに比べて、強度を高く締結でき、樹脂を保護する事も可能です。また、インサートカラーなども、ボルトと併用する事で、樹脂を保護する同様の理由で多用されています。
  • リユース締結が可能
    樹脂用のタッピングねじは樹脂にめねじを切ってしまうため、リユースするには不向きです。
    インサートナットと小ねじを使う事で、何度も締結する事が可能となります。
    複数回取り付ける箇所や、メンテナンスを想定する場合には、インサートナットを利用した締結方法が有効です。

インサートナットの代表的な種類

インサートナットには複数の種類があり、用途や素材によって選定が必要です。以下は代表的なタイプです。
ここではインサートナットに限らず、少し視野を広げて、樹脂にナットを成形する方法を紹介します。

①代表的な圧入方法

  • 熱圧入タイプ:熱で樹脂を溶かしながら挿入。強固な固定が可能。スタンダートな圧入方法です。
           温度設定や、下穴の設計など細かい調整が必要ですが、その反面抜群の強度を発揮します。
           東海物産(株)の商品では、SBタイプ、FBタイプになります。
           圧入には、半田こてや、専用工具を使います。

  • 冷間圧入タイプ:小型プレスやハンマー等で直接打ち込む簡易的な方法。
            インサートナットが小さい場合や、樹脂のばりが問題になる場合などに有効です。
            東海物産(株)の商品では、SBタイプ、FBタイプ、SDタイプ、FDタイプになります。
            但し、SB、FBタイプの冷間圧入は熱間圧入比較で強度が弱くなるため推奨していません。
            
  • 超音波圧入タイプ:超音波振動で熱を発生させ、短時間で圧入が可能。
             ホーンと呼ばれる専用の工具を超音波で振動させて圧入します。
             樹脂のばりが出にくいという特徴がありますが、反面ナットの天面に傷がつくという
             デメリットもあります。
  • ねじ込みタイプ:金型不要で、樹脂にねじ込んで固定。
            専用工具で樹脂に下穴を施工し、ナットを挿入する方法です。
            ヘリサートやイリサートと呼ばれています。

②圧入方法の比較表


スクロールできます

熱圧入タイプ

冷間圧入タイプ

超音波圧入

ねじ込みタイプ
トルク強度強い弱くなる良い良い
引っ張り強度強い弱くなる良い良い
圧入工数
(コスト)
良い良い初期投資必要工程多い
作業性慣れ必要簡単簡単制限付き
樹脂ばり制限付きでにくいでないでない
メリットスタンダート
バランスが良い
樹脂ばりでにくい樹脂ばりでない樹脂ばりでない
デメリット樹脂ばり対策
メッキ品は要注意
強度が弱い切粉がでる
天面に傷ができる
作業工数が高い
専用工具必要
各製品の比較

それぞれにメリット・デメリットがあるため、製品仕様に応じた選定が必要です。

インサートナット選定・設計の基本ステップ
【7つの手順】

インサートナットの使用方法は、選定したタイプにより異なりますが、基本的な流れは以下の通りです。

①要求強度の確認


 使用するネジや用途に応じて、必要なトルクや引き抜き強度(抜去力)を設定します。
 図面に記載がある場合は、その数値を必ず確認してください。
 記載がない場合は、締め付けトルクや面圧から、強度を計算し、インサートナットにかかる負荷を計算します。

②インサートナットの選定

使用する樹脂の種類から、圧入に適したインサートナットのタイプ(例:熱圧入用、冷間圧入用など)を選びます。熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂なども確認し、対応しているインサートナットを選定します。

 

(※当社ホームページより)

③挿入方法の選定

 熱圧入・冷間圧入・超音波圧入・ねじ込み・打ち込みなど、製品や設備に適した挿入方法を選定します。
 まずは熱圧入を基本として検討する事をお勧めします。

 

④下穴の設計

ナットの種類に応じて、適正な下穴寸法および公差で下穴の設計を行います。(東海物産(株)のカタログを参照 してください。)

⑤トルク耐力・引抜耐力のテスト

実際にナットを圧入して、設定した強度が確保されているかを実測します。
この時、圧入時に樹脂ばりが出ていないか?下穴は適正か?この点に注意し、樹脂を観察します。


※当社では強度テストのサービスも実施しています。お気軽にお問い合わせください。


※写真提供:東海物産株式会社

⑥強度不足時の再検討


 強度が満足できない場合は、ナットのタイプや挿入方法を変更し、再度テスト。
 トライ&エラーによって最適化を図ります。
 また、樹脂ばりが出ている場合は、圧入条件の変更や、下穴の見直しも行います。
 この際に、圧入条件を細かく把握すると、条件出しを正確に実施することが可能です。

 

⑦最終評価(組立確認)

 他部品と組み立てて、全体として嵌合に問題がないか、締結状態が安定しているかを評価します。
 また、ジャッキアップトルクなどが発生していないか、観測します。

ジャッキアップトルクとは?
ねじを絞めたら、インサートナットが浮いてきた!?
そんな症状がでた時の対策はこちらで解説しています。

使用時の注意点とトラブル事例

ここではインサートナットを使用する場合に、よくご相談をいただくトラブル事例とその対策をご紹介します。

ジャッキアップトルク(ナット抜け)

[原因]ジャッキアップトルクの原因

ジャッキアップトルクとは、ネジを締める際に、軸量によりインサートナットが抜けてくる現象です。
下穴径の設計ミスや、ナット形状より大きい部材を挟み込んでいる場合、柔らかい部材の挟み込みによる反力不足などが主な原因です。詳しくは、別の動画・記事で解説しておりますので、ぜひご確認ください。

[対策]ジャッキアップトルク

  • 適正な下穴設計
    カタログの下穴設計を参考に、問題ないか確認をしてください。
    また、インサートナットの外径より、締結部品の穴が大きいと、反力が十分にかかりません。そのため、締結部材の穴はインサートナットの外径より小さい穴を開けるようにしてください。
  • 柔らかい部材の排除
    パッキンやシール材などを挟んでいる場合は、それら部材を除去するか、硬い部材で挟み込むようにしてください。ナットに接触する部分は硬い材料にする必要があります。
  • フランジ付きナットを検討
    フランジ付きナットを導入し、締結部材との接触面積を大きくします。

ジャッキアップトルクとは?
ねじを絞めたら、インサートナットが浮いてきた!?
そんな症状がでた時の対策を、詳しくこちらの動画と記事で解説しています。

ナットの空回り

[原因]

ネジを締め付けると、ナットが空転してしまう現象です。
多くは、下穴の設計ミスや、インサートナットの強度不足、締め付けトルクの管理不足により発生します。
ナットの強度不足も懸念されますので、注意深く原因を観察する必要があります。

[対策]

  • 適正な下穴設計
    下穴の設計ミスは、トラブルの大半を占めます。カタログの寸法を確認したり、メーカに相談し適正な下穴を設計してください。
  • インサートナットの種類を再検討(インサートナットの強度不足)
    テストを行い締め付けトルク以上の強度(引き抜き耐力、トルク耐力)がでているか確認をしてください。
    満足できていない場合、ナットの形状を変更し、ナットの強度を上げる必要があります。
  • 適正なトルク管理
    過度なトルクでねじを締め付けていないか確認してください。
    インサートナットと樹脂には強度の限界がありますので、適正な締め付けトルクで締結してください。

③樹脂のクラック(割れ)

ネジを締結している最中に樹脂が割れてしまう
インサートナットを圧入中に割れてしまう
インサートナットを圧入し、少し時間(1〜2日程度)が経過した後にクラックが入る。

こんな現象の場合は、以下の点に注意してください。

1)ネジ締め時にクラックが入る現象

ネジを締結している最中に、ネジにクラックが入る現象です。
多くは、組立時に発生します。

[原因と対策]ネジ締め時にクラックが入る
  • 下穴の設計ミス
    下穴が小さい場合や、不適切な場合、樹脂に応力がかかっている可能性があります。樹脂の形状がボス形状など場合には注意が必要です。
    下穴を再設計してください。下穴が小さい場合が多いです。
    また、ボス形状の場合、ボスの外径はナット外径の2倍を目安に設計してください。

  • 過剰な締め付けトルク
    過度な締め付けにより、ナットが割れている可能性があります。
    適正な締め付けトルクを確認し、トルクを管理してください。
    ボスの肉厚が薄い場合は尚更です。

2)インサートナット圧入中にクラックが入る

[原因と対策]インサートナット圧入中にクラックが入る
  • 下穴の設計ミス
    下穴が小さい場合や、不適切な場合、樹脂ワークに応力がかかっている可能性があります。
    樹脂ワークの形状やボス形状など場合には注意が必要です。
    下穴が小さい場合が多いですので、下穴を再設計してください。
    また、ボス形状の場合、ボスの外径はナット外径の2倍を目安に設計してください。
  • 残留応力の除去
    樹脂の成形時に発生した、応力が樹脂に残量している場合があります(残留応力)。
    この応力を除去する事で、改善が見込める場合があります。
    成形時にアニール処理など、残留応力除去の工程が含まれているか確認をしてください。
  • 熱入時の温度が低い
    熱圧入時の温度が低いと、インサートナット周辺の樹脂が溶けきらず、圧入する際の推力により、応力が発生しクラックが入る場合があります。
    圧入時の温度を上げて、樹脂が十分に溶ける温度に調整をしてください。熱圧入の場合は、温度設定が出来る挿入治具を使うようにし、必ず圧入温度を管理しましょう。

3)インサートナット圧入後にクラックが入る(ソルメントクラック)

インサートナットを圧入し、少し時間が経過した時に、クラックが入っている場合があります。
圧入した時には何でもなかったのに、数日後に割れている。こんな経験がある方は以下をチェックしてください。
(多くは圧入時には気づかず、組立時に発覚する場合が多いです。)

[原因と対策]インサートナット圧入中にクラックが入る
  • 油分の残留
    樹脂に油分が付着し、クラックが入る現象です。ソルメントクラックと呼びます。
    インサートナットは出荷時にはきちんと脱脂をしてあり、油分が付着していない状態です。しかし組立時に何らかの形で油分が付着し、クラックを発生させます。この場合、手袋に付着した油分や、工具に付着した油などが原因になる事が多いです。手の油分も原因となる事があります。

    まずはインサートナットがきちんと脱脂ができているか?こちらを確認してください。
    また、作業や工具など油分の付着がないかを確認し、対策を行います。手袋を着用する、工具を使わないようにする等を行います。
  • 残留応力の除去
    樹脂の成形時に発生した、応力が樹脂に残量している場合があります(残留応力)。
    この応力を除去する事で、改善が見込める場合があります。
    成形時にアニール処理など、残留応力除去の工程が含まれているか確認をしてください。

インサートナットを選定する場合のポイント

インサートナットを選定する際は、以下の点に着目してください

① 対応素材(対応樹脂)の確認

樹脂の材質やガラスファイバーの有無など、圧入する樹脂の材質の物性や特性を確認してください。
熱圧入の場合、樹脂の材質により、温度設定などが変わってきます。
例えば、ガラスファイバーが入っている場合、高温(300度以上)で圧入する必要があります。
PPやナイロンなどの場合、低温(200度〜250度)に設定する必要があります。

また、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂なのか、この点もチェックをしてください。
熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂によって、対応するインサートナットの種類が異なります。
東海物産の商品は下記に分類されます。

樹脂の種類インサートナットの種類(タイプ)
熱硬化性樹脂
※熱を加えると固くなる
SDタイプ
FDタイプ
(ダッチインサート)
熱可塑性樹脂
※熱を加えると柔らかくなる
SBタイプ、FBタイプ(ビットインサート)
UD2タイプ、UD4タイプ(ウルトラサート)
WBタイプ、FWBタイプ(ウェーブビット)

②引っ張り強度・トルク強度の確認

要求される強度に合わせて、インサートナットの種類(タイプ)を選定する必要があります。
どれを選定すればわからないというお客様は、以下のステップを参考にしてください。

  1. SB・FBタイプから希望のサイズを選定
  2. 実際に樹脂に熱圧入し、強度を計測 (当社でも強度試験サービスを実施しています)
  3. 強度が満足できない場合、UD2タイプ、UD4タイプを選定
  4. 強度試験を実施し、計測
  5. さらに満足できない場合は、特注製品を検討ください。

③ 挿入方法、圧入方法の確認

樹脂の種類やインサートナットの種類によって、使用する設備が異なります。

インサートナットの種類圧入方法
SDタイプ、FDタイプ
※熱硬化性樹脂
専用ポンチを使い、ハンマーによる圧入
小型プレス
SB/FBタイプ
UD2タイプ
UD4/FUタイプ
WB/FWBタイプ
※熱可塑性樹脂
半田こてによる圧入
ハンド式熱溶着による圧入
自動圧入機による圧入


弊社では、熱圧入機を活用し、アウトサート成形作業の代行を承っております。

「どの圧入方法が自社に合っているかわからない…」
そんな方のために、3種類の圧入方法の特徴や違いをわかりやすく解説した動画をご用意しました。

導入をご検討の方は、ぜひ下記の動画をご覧ください。

④ インサートナットのサイズを確認


インサートナットの全長、外径やフランジ径各種公差などを確認してください。

特に、袋穴タイプの場合は、ネジの有効長さについて必ずチェックしてください。
全長の長さと有効ネジ長さについては、加工の関係上、制約があります
例えば、全長10mmで、有効ネジ長さを9mm確保したいとなった場合は、加工が難しい場合があります。
トラブルが多い要素となりますので、必ず確認をするようにして下さい。

⑤ インサートナットを使用する環境の確認

インサートナットを使用する環境はさまざです。屋外で使用される場合や、水回りで使用される場合など、用途に応じたナットの選定が必要になります。
耐熱性が必要なのか?耐食性が必要なのか?これらを確認ください。
お問い合わせの耐食性の対策は、大きくわけて下記になります。

  • 材質による対策   → SUS303/ SUS304 など
  • メッキによる対策  → 電気ニッケルメッキ、無電解ニッケルメッキ、ハイニッケル、ジオメットetc

ステンレスにすると加工性が下がり、材料コストもアップします。
メッキの場合、材質を鉄に変更し、メッキをする必要があります。
これらは、メリット・デメリットがありますので、コスト、耐食性能等を比較し、ナットを選定するよう事が重要になります。

⑥インサートナットを使用する環境の確認

カタログには、推奨穴径や圧入条件、強度試験データなどが記載されています。目的に合った項目をチェックして、仕様に適合した製品を選定しましょう。
※カタログを細かくチェックする事が重要です。

まとめ
正しい使い方が品質とコストを左右する

インサートナットは、小さな部品でありながら製品全体の品質・信頼性に大きく影響する重要な要素です。
正しい使い方と適切な選定により、締結トラブルを防ぎ、組立工数やコストの削減にもつながります。

導入をご検討の際や使用に不安がある場合は、当社にてナットの選定から設計・相手樹脂の下穴の設計までご提案をしております。お気軽にご相談ください。

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